大阪地方裁判所 昭和25年(ワ)548号 判決
原告 藤江政太郎
被告 内海利治
一、主 文
被告は原告に対し金五万四千二百円及び内金三万五千円に対する昭和二十五年八月二十三日より残金一万九千二百円に対する同年三月三十日より各支払済迄年五分の割合による金員を支払うべし。
原告その余の請求を棄却する。
訴訟費用は三分し、一を原告の負担とし、その二を被告の負担とする。
本判決は原告勝訴部分に限り原告において金二万円の担保を供するときは仮に執行することができる。
二、事 実
原告は被告は原告に対し金六万七千二百円及び内金三万五千円に対する昭和二十五年八月二十三日より残金三万二千二百円に対する同年三月三十日より、各支払済迄年五分の割合による金員を支払うべし、訴訟費用は被告の負担とするとの判決と仮執行の宣言を求め、その請求原因として原告は弁理士であるが、
(一) 昭和二十三年八月九日被告及び訴外黒川一夫から訴外藤本繁雄に対する第一七六三七五号特許権利範囲確認審判請求事件を受任し、同日特許局にこれを請求し、右事件は同局昭和二十三年審判第七七号事件として繋属したが、同年十一月二十日「請求人の申立は成立たない」旨請求人(被告及び黒川)敗訴の審決を受け、
(二) 被告及び黒川は同年十二月二十日前項敗訴の審決に対する不服抗告審判の提起を原告に委任し、原告は同日抗告審判を特許局に請求し、右事件は同局昭和二十三年抗告審判第三三四号事件として目下同局に繋属中である。
(三) 被告及び黒川は訴外石川次郎から、その共有に係る特許第一七六三七五号無効審判の請求(特許局昭和二十三年審判第八五号事件)を受け、昭和二十三年十一月五日原告に右事件を委任し、抗争中であつたが、昭和二十四年六月二十日「請求人の申立は成立たない」旨被告及び黒川勝訴の審決を受けた。
(四) 被告は訴外吉野玉太郎から訴外紙谷幸太郎、庭山睦世の両名に対する第一七六二一〇号特許権利範囲確認審判請求事件を、手数料、謝金は全部被告において負担支払う約束で昭和二十三年八月九日原告に委任し、原告は同日特許局に対してこれが審判を請求し、右事件は同局昭和二十三年審判第七六号事件として目下同局に繋属中である。
(五) 被告は昭和二十三年八月六日原告に名古屋市新生商会及び岐阜市山口製作所に対する被告及び黒川共有の第一七六三七五号特許権侵害行為排除請求の交渉事件を委任し、原告は同日右新生商会及び山口製作所に出張し夫々特許権侵害行為排除の交渉を為した。
(六) 被告は同年十月三十日神戸市兵庫区上祇園町百八十二番屋敷訴外石川次郎に対する同人出願の昭和二十二年特許願第八八一〇号及び昭和二十二年特許願第四〇四六号に対する特許異議申立事件を原告に委任し、原告は同日特許局に夫々異議申立を為し、同事件は目下同局に繋属中である。
(七) 被告は昭和二十三年八月十日神戸市十合百貨店及び同市大丸百貨店に対する前記特許権侵害行為の排除交渉及び大丸に対する前記特許権侵害の告訴提起方原告に委任し、原告は同日十合及び大丸に出張し夫々交渉を為し、大丸に対する告訴提起は一旦神戸市生田警察署に告訴状を提出したが被告了解の上これを中止した。
(八) 前記特許局昭和二十三年抗告審判第三三四号、第一七六三七五号特許権利範囲確認抗告審判請求事件が繋属中、黒川は昭和二十四年十二月十五日、被告は昭和二十五年二月二十日何れも原告に無断で右特許権の持分権を夫々訴外真鍋初次に譲渡し同局は昭和二十五年一月二十五日(黒川の分)及び同年三月三十日(被告の分)各その旨の登録を了した。従つて被告及び黒川は前記持分権の処分によつて原告の代理権を消滅せしめ、法律上原告を解任したると同一の効果を発生せしめたのであるから右事件は成功したものと看做さるべきものである。
そして原告所属の弁理士会が昭和二十三年八月一日より改正施行した特許事務標準額表によれば、(一)特許異議申立事件の手数料は一件金五千円、(二)無効権利範囲確認その他審判請求事件の手数料は一件金一万円、(三)前の審決に対する抗告審判請求事件の手数料は一件金一万円、(四)謝金は一率に手数料の倍額とする旨定められ、原、被告間には前記各事件について弁理士会所定の標準額以上の手数料及び謝金の取極めを為さなかつたので前記各事件の手数料及び謝金については右標準に従うべきである。
従つて前記(一)乃至(三)の手数料各金一万円宛合計金三万円(三)の謝金二万円、(四)の手数料金一万円(五)の出張費及び手数料金五千円、(六)の手数料金五千円宛合計金一万円、(七)の出張費及び手数料金一万円(八)の謝金二万円を被告に請求し得べきところ、原告は昭和二十三年十月三十日(六)の事件の手数料の内金として二千八百円を被告から受領した。
よつて被告に対し(一)乃至(三)及び(七)の手数料及び謝金合計金七万円の内金三万五千円及び(四)乃至(六)の出張費及び手数料合計金三万二千二百円及び前記金三万五千円に対する昭和二十五年八月二十三日から、金三万二千二百円に対する本件訴状送達の翌日である昭和二十五年三月三十日から各支払済迄年五分の割合による損害金の支払を求めるため本訴に及んだと陳述した。<立証省略>
被告は原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として原告主張の各事件を弁理士である原告に委任したことは認めるが、被告は昭和二十三年四月十一日より昭和二十四年九月二十六日迄の間に十三口、合計金五万一千三百十二円四十銭を原告に支払済であるが、何れの事件に支払いたるものか領收証なき為不明である。
原告主張の(三)の事件は当初原告に委任していたが同様の事件が東京でも発生した為、特許事件に関しては原告了解の下に総て東京の樺沢弁理士に委任し、本件の謝金は原告には支払を要せざるものである。
原告主張の(五)の事件については原告より出張の意思表示がありその際相手方と交渉の上相手方より損害金を取ればその内から費用は支払う旨原告と約定済である。
原告主張の(七)の事件については原告は近所であるから出張費等はどうでもよいと称していたものである。
原告は大正五年末以来の亡父の知人で、被告と極めて親密な間柄で、被告は戦後特許出願の為、所在不明の原告を探し出し事件を依頼したものであつて、事件を依頼の際原告は常に親密な間柄であるから無理はしないと称し、手数料或は謝金の額を明示せず、原告主張の弁理士会所定の標準額等も告げられなかつたので被告は斯の如き定の存することを知らなかつた。被告は勝訴となり或は損害金を取れば、それをもつて手数料或は謝金を原告に支払うべきことを原告に申入れ、原告もこれを承知の筈である旨陳述した。
三、理 由
被告が弁理士である原告に対し原告主張の(一)乃至(六)の事件を委任したことは被告の争わないところである。
そして真正に成立したものと認むべき甲第二号証によれば、被告及び訴外黒川一夫は原告主張の各日時、被告及び黒川の有する特許権の持分を夫々訴外真鍋初次に譲渡し、原告主張の各日時その旨の登録が為されたことが認められ、証人樋口菅二の証言及び右証言によつて成立を認め得る甲第一号証によれば、原告の所属する弁理士会においては昭和二十三年八月一日から原告主張の如き特許事務標準額の定めを為し弁理士に右標準額表記載の如き事件を委任し、その手数料、謝金につき当事者間に特約なき場合には弁理士は委任者に対し右標準額所定の手数料及び謝金を請求し得べき慣例の存すること及び委任者が委任事務完了前受任者を解任したるときはその事務は成功したるものと看做し、右標準額に従い謝金の請求を為し得べき慣例の存することが認められる。従つて被告及び黒川がその共有に係る特許権の権利範囲確認の審判請求事件の抗告事件を原告に委任中、原告に無断で確認の審判請求の目的たる特許権を他に譲渡したる場合には解任の場合に準じ、原告は右抗告事件が被告及び黒川勝訴となりたるものと看做し、前記標準額に従い被告及び黒川に謝金の請求を為し得るものと解するを相当とする。
従つて原告は(一)乃至(三)の手数料各一万円宛合計金三万円(三)及び(八)の謝金各二万円宛合計金四万円以上合計金七万円の半額金三万五千円(四)の手数料金一万円(六)の手数料金五千円宛合計金一万円(但し内金二千八百円受領済)を被告に請求し得べきものである。
原告は(五)の事件について出張費及び手数料金五千円(七)の事件については出張費及び手数料金一万円を請求するが、前記甲第一号証の標準額表には日当一日金一千円、汽車汽船による交通費二等賃金相当額と記載してあるのみであるから、右事件について前記割合による日当及び二等賃金相当額の交通費を請求するのは格別、それ以上の金額である原告主張の如き出張費及び手数料を被告に請求するには原、被告間に右事件については相当の手数料を支払う特約が存し、原告主張の受任事務の難易、大小等に照らし相当の数額であることを認め得べき手数料と原告が右事件について支出した費用が原告主張の数額となることを立証すべき責があるものと解すべく、この点については原告は何等の立証をしていないから(二等賃金相当の交通費についても立証がない)結局原告は右(五)及び(七)の事件については金千円の日当一日分宛合計金二千円を請求し得るに止るものと謂わなければならない。
被告は昭和二十三年四月十一日より昭和二十四年九月二十六日迄の間合計金五万一千三百十二円四十銭を原告に支払済であると主張するが、これを認むべき確証なく、又被告は原告主張の(三)の事件の謝金は東京の樺沢弁理士に支払えば足り、又(五)の出張費は相手方から損害金を取ればその内より支払う約定であり、(七)の事件の出張費等は近所であるためどうでもよいと原告は称していたものである。元来原告と被告は親密な間柄であつて事件委任の際原告は常に無理はしないと称し、被告は事件が勝訴となり或は損害金を取ればそれをもつて手数料或は謝金を原告に支払うべきことを常に原告に申入れ原告もこれを承知の筈であると主張するがこれを認むべき確証がない。
然らば、被告は原告に対し、金五万四千二百円及び内金三万五千円に対する本件訴状が被告に送達後である昭和二十五年八月二十三日から、残額金一万九千二百円に対する訴状送達の翌日であること記録上明らかな同年三月三十日より各支払済迄年五分の割合による金員の支払義務があり、原告の本訴請求は右の限度において正当でこれを認容すべく、その余は失当としてこれを棄却すべきものである。
よつて訴訟費用の負担について民事訴訟法第九十二条仮執行の宣言について同法第百九十六条を適用し主文の通り判決する。
(裁判官 岩口守夫)